HOME


宇梶 静江
(写真:Jun Takagi)

 宇梶静江(うかじ しずえ)
1933年3月、北海道浦河町生まれ。

アイヌとして生きた両親の精神生活は豊かだったが、生活は苦しかった。その両親を助けて、満足に小学校にも行けなかったが、独りで絵や言葉の世界に遊ぶ感性豊かな少女だった。両親は差別を怖れてアイヌ語を教えることはしなかったが、カムイのことやアイヌのしきたりを折にふれて話してくれた。父親は春先に山仕事を終えて戻ってくると、入ったお金で村のアイヌの人たちを呼んで何日もご馳走を振る舞った。アイヌのおじいさん、おばあさんが酔い、語り合い、歌い、踊る姿を毎年見て育った。周りにはまだアイヌ文化が色濃く残っていた。その記憶が体にしみついている。


 20歳で札幌の中学校に入学。卒業後、札幌で職を求めたが、就職差別の壁にはばまれた。上京し、働きながら夜間高校に通う。やがて結婚し、宇梶姓となり、一男一女をもうける。しかし、次第に和人の社会に違和感を抱き始める。1972年、朝日新聞に「ウタリ(同胞)よ、手をつなごう」と呼びかけ文を投稿。それが大きな反響を呼び、翌年、道外で初めてのアイヌ団体、東京ウタリ会が結成され、初代代表となり、アイヌ民族の権利・人権運動に奔走するようになる。1975年頃より都議会に働きかけ、東京都在住のアイヌ民族の生活実態を調査。その結果、新宿職業安定所にアイヌのための相談員を置くこととなり、初代相談員を務める。

 1996年、北海道ウタリ協会(現北海道アイヌ協会)主催の職業訓練所でアイヌ刺繍を勉強し直し、和服地を用いて、アイヌ伝統刺繍でアイヌ民族の精神世界を表現する手法を編み出し、「古布絵」と名づける。ダイナミックで、迫力に満ちた、独創的なアイヌ文化のアートは海外でも高く評価されている。アイヌ刺繍は縄文からつながる命の糸だという思いを刺繍の一針、一針にこめて、作品づくりをしている。

 首都圏アイヌの団体のとりまとめ組織であるアイヌウタリ連絡会の代表も務め、現在進められているアイヌ政策の中に首都圏アイヌの要望「首都東京にふさわしいアイヌ文化施設」設置を実現させようと尽力している。個展開催と共に、アイヌの精神世界、人権問題、復権運動について日本各地で講演している。2011年3月、古布絵作品、これまでのアイヌ運動への貢献、先住民族国際交流の実績を評価され、アイヌとして三人目の吉川英治文化賞を受賞。

宇梶静江 略歴
1933年
・北海道浦河郡字姉茶(旧荻付村)で、浦川春松とミヤの四男二女の三番目の次女として生まれる。
1953年
・私立北斗中等科(札幌)に入学。
1956年
・同校卒業。上京し、働きながら定時制高校に通う。
その後、結婚し、宇梶姓となり、一男一女をもうける。
1963年
・詩作を始め、詩人会議に所属。「灯籠の灯を数える少女」などを発表するが、アイヌをテーマとした作品が書けないことに悩む。
1972年
・浦川美登子と共に、朝日新聞に「ウタリたちよ、手をつなごう」を投稿。首都圏アイヌ結集のひとつの契機となる。
1973年
・東京ウタリ会を結成し、アイヌ権利獲得のための活動を始める。
1974年
・東京都在住のアイヌのための施策を求めて、東京都議会に働きかけを開始。
1975年
・この働きかけによって、東京都による都在住のアイヌ民族の生活実態調査が実施され、その結果、新宿職業安定所にアイヌのための相談員枠が設けられ、初代相談員を務める。その活動の軌跡は、道外のアイヌ活動家として唯一「北海道ウタリ協会五十年の歩み」に記載される。
1994年
・アイヌ詞曲舞踊団「モシリ」東京公演実行委員会のメンバーとして全国ツアーに参加。
1996年
・北海道ウタリ協会主催の職業訓練所でアイヌ刺繍を勉強し直し、和服地を用いて、伝統刺繍でアイヌの精神世界を古布絵に表現することに成功。
・札幌市の市田ギャラリーで初の刺繍作品の個展。古布絵作家としてデビュー。
以後、各地で作品展を開く。
1997年
・出身地浦河町の図書館で開かれた展示観賞会に刺繍作品「浦河憧憬」を出品。
1999年
・東京フジタアヴァンテにて、首都圏在住のウタリ(同胞)たちをモデルに起用した、アイヌ刺繍作品のファッションショーを開催。
2001年
・弟浦川治造、星野工と共に、米国の先住民支援NGOの招きで訪米。ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所主催の講演会で「アイヌ—-私たちのアイデンティティと望み」と題する講演を行う。MITにおいても、日本プログラム主催で同内容の講演を行う。
・福島県いわき市美術館にて、オーストラリア先住民族の画家バーバラ・ウィアーさんと対談。
2002年
・アイヌ衣服文化に関する調査団にオブザーバーとして参加し、ドイツの大学、博物館を訪問。
2003年
・福島県いわき市の海外姉妹都市との文化交流の一環としてオーストラリア、タウンズヴィル市を訪問、作品展、大学での講演、ラジオ出演などを行い、アボリジニの芸術家と交流。
・アイヌ工芸作品コンテスト(一般部門)刺繍古布絵作品「セミ神様のお告げ」が優秀賞。
・ユーラシアン・クラブ主催のロシア東部地域訪問に参加し、先住民族と交流。
2004年
・(財)アイヌ文化振興・研究推進機構よりアイヌ文化奨励賞を受賞。
2006年
・リバティおおさか(大阪人権博物館)「語りの広場」で「アイヌ民族として」という演題で講演。
2007年
・首都圏アイヌの活動を描く映画製作を呼び掛け、ドキュメンタリー映画「TOKYOアイヌ」製作の契機となる。
2008年
・7月の洞爺湖でのG8サミットに先がけて開催された「先住民族サミット アイヌモシリ2009」に共同代表として参加。
・NHKラジオ深夜便「こころの時代」に出演。
2009年
・『セミ神さまのお告げ』が北海道学校図書館協会の指定図書(北海道青少年のための200冊)となる。
2010年
・首都圏アイヌのとりまとめ組織アイヌ・ウタリ連絡会代表に選ばれる。
2011年
・2011年吉川英治文化賞受賞。
・2012年リオで開催される第三回「地球サミット」国内準備委員会委員に首都圏アイヌ代表として選ばれる。
・エッセイ集『すべてを明日の糧として』刊行。
・NHKラジオ「私も一言」に出演




宇梶静江の詩  宇梶静江の書籍
ハポ工房紹介 主宰者紹介 料理教室・刺繍教室・お話会 交通アクセス ハポ工房ショップ リンク


copyright
 宇梶静江の世界 all rights reserved
このサイトで使われている動画・写真・文章の無断転用は固く禁じます。

inserted by FC2 system